チキンファイター

 

 耳を劈くような、頭の中をかき回すようなその音の方へ目をやると・・・
 ニワトリがいた。
「お目覚めかい?坊ちゃん」
 武器!武器はどこだぁあああああ!!!!!
「武器はどこだぁあああああ!!!!!」

「改めまして私、今宵あなたの夢をナビゲートするニワトリです」
「俺はニワトリとは全く縁がないんだけどなぁ。食う以外では」
「流石、食物連鎖が上の方々は言うことが違う・・・」
 ニワトリが首をぐるぐると回す。武器は使わなかったものの、悪夢に鉄拳で一矢報いることに成功している。しかし、その首の様子を見るとダメージは少ないみたいだ。
「つい先日、世話の焼けるお嬢さんがやっと私の手を離れたので、私、出張してしまいました」
「そのニワトリが俺になんの用だよ?」
「坊ちゃんは明日、何をする?」
「その坊ちゃんてのやめろ。次は食べるぞ」
「流石(以下略)」

「明日は・・・家で寝てるよ」
「それでいいのかい?」
「いいんだよ」
「そうすることが、一番の裏切りじゃないのかい?」
 クソ、食品のクセに・・・。
「彼女は約束を守る人だよ。絶対に。君は、どうだい?」
「いいんだよ。俺はアイツが嫌いなんだ」
「本当に嫌いだったら、君も最初の約束は守らなかっただろう?」
「アイツのためにやってたんじゃない」
「今、流行りのツンデレですか?クラスチェンジしてしまってますか?」
「俺はツンはあれどデレはない」
「約束を守ること。それが彼女から教わった大事なことだろ?」
「ん・・・」
「不条理に打ち勝つ方法を教えてくれたのは、誰だい?」
「アイツだよ・・・。でも、歯を食いしばって生きるのが不条理に打ち勝つ大人の生き方なら、俺は一生我慢を続けなけりゃいけないのか?」
「でも、私が思うに、君はどっちの道を選んでも歯を食いしばると思うよ。なら、君が正しい、不条理じゃないと思う道を選ぶべきだと思うね」
「・・・・・・」
「ハッキリ言おう。君がもし、明日本当に家で寝て過ごすのなら、それは不条理だ。不条理を打ち払うのは、君の運命なのに」
「・・・じゃあ、どうやってやればいいんだよ」
「不条理を・・・」
 その手に携えた剣で
「打ち払うんだろ。わかったよ」
「よくわかったね、坊ちゃん」
「よし、次はもう何も言わずにお前を焼いて食べる」
「流石(以下略)」

「じゃあ、聞くよ、ニワトリ。どうやって不条理を打ち払えばいい?どうすればいいいんだ?」
「君は、この世界のどの剣より強い剣を持っているだろう?」
「・・・傘なら、ぶっ壊れちまったよ」
「傘じゃないよ。よく、考えるんだ」
「・・・・・・」
「君の宝物さ」
「竹刀」
「その通り」
「その竹刀でどうしろと?」
「また、君が考えるんだよ」
「・・・一本、取る。俺がアイツから一本取って、もう二度とどこにも行かないようにする」
「やっとわかったね、鉄輝坊ちゃん。私は食べられる前に逃げるとするよ。大体ニワトリは昼に鳴くもんじゃないんだからね」
 うぉ・・・強烈な夢だ・・・。
 日はすっかり登りきっている。
 俺は全速力で竹刀の元へと向かい、急いで着替えて道場まで走った。
「やっと来たな、鉄輝」

 走った先にいたのは、相変わらずのその姿。